幸を望む小鳥・後日談@水輪千夜さん
毎度の事ながら、重要な用件を後になってから手渡されたイクスは、内容を確認しながら重たいため息を吐いた。
テーブルの周辺でそのため息を聞いていた者たちは、ルクティ教室の教室長の様子に多少の同情も交えつつ苦笑を漏らすのが常で、今日も大半の者が苦笑を浮かべた。
しかし、いつもと違ったのはいつも心配そうにその様子を見ているだけの天麗が、突然「ダメですっ!」と力のこもった声を上げたことだった。
「イクス様、ダメです。ため息を吐くと幸せが逃げてしまうんですから」
色違いの双眸は至極真面目で、怖いほど真剣な色を湛えてイクスを見つめる。肩の辺りまで持ち上げられた両手は、小さくこぶしを握っていた。
同席していた者たちが意外な展開に目を丸くして視線を向けていることにも、頬を紅潮させて力説している天麗は気づかない。――気づいたら、それどころではなくなるのであろうが。
瞬き数回分の沈黙を破ったのは、リートの明るい声だった。
「大変です、イクスさん、急いで吸い込まないと」
「はっ?」
突然名指しで呼ばれて、イクスは天麗と合わせたままだった眼をリートに向けた。
「ため息ついたすぐ後なら、きっと吸い込めば取り返せます!」
リートの提案に、天麗が納得したように一度頷いて、きゅっとこぶしにますます力をいれた。
妙案に輝くリートと天麗の眼に、イクスは堪らず沈黙した。
「………わかってない」
離れたところでその様子を見ていた詩乃が、苦々しい口調で呟いた。
【完】 戻る
拙作「幸を望む小鳥」に、水輪さんからとても可愛い後日談小説を頂いてしまいました!
吸って吸ってと催促するリートと天麗嬢、沈黙するイクスの顔が思い浮かんできます。
どうも有難うございました!
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