遙かなる人へ

 沈痛な静けさに満ちた聖堂を抜け、サイファは滲んだ視界で空を見上げた。
 ひるがえる紋旗に緋色の鳥が羽ばたく。
 射し込む強烈な陽。
 眼に染みるその光景を見つめているのは確かで、しかしその空が見えなくなる。

 心地よい風に包まれていると言うのに。
 身体が熱い。
 目頭が熱い。
 痛い、傷い、悼い。
 燃えるようないたみを感じる。
 ああ、息が苦しい。

 思い出すのは、ただ。

 ふと、見慣れない黒服に身を包んだ人影が傍らで立ち止まった。似合わぬ堅い顔をして、同じ光景を見上げている。
 だがその瞳は──
「……いんだ」
 彼は一言零し、そのまま先へ歩いて行く。その背は何時もと同じように真っ直ぐ伸ばされていた。傍らにあの存在が亡い不自然さに気付かせてしまうほどに。
 サイファは伏せた睫毛に冷たいものを宿した。

「お前みたいに、泣けないんだ」

 弔いの鐘が鳴る。
 遙かな彼方のあのひとまで届くだろうか。