She is a Lady Witch 5

 花を眼にし、青年と少年の狭間に位置する年頃の彼はただの知識としてその名を口にした。
「さすがに詳しいのね」
 別段鑑識を頼んだ覚えはないし、彼の方でそれを求めているとも思えなかったが、他にする事もなかった彼女は軽く相槌を打った。
 それだけの意味しかない誉め言葉に、しかし彼は視線を心持ち外し俯くと簡単な礼を口にする。同室者等と舌戦を繰り広げている姿から想像し辛いが、意外と照れ屋な反応を、彼女は微笑ましく思った。
 彼女と視線を合わせられなくなった彼は、困った風に言葉を繋ぐ。
「植物は専門外だけど、それはうちの先生が好きだから……」
 だから覚えていたんだ、と続くのだろう彼の台詞に、それは知っていると彼女は心の中で応えた。
 いい歳でありながら未だ男友達との遊びの方が楽しくて、どんな大輪の花にも眼を向けないと思われたかの教師が、研究的な意味以外で花を愛でるとは意外に思ったが、それもこの花ならば理解出来るような気がしたものだ。
 頷くように髪を揺らして、彼女はその場に腰を下ろした。何時もの中央に程近い席ではないが、稀には良い。
 賑やかなのが好きでないらしい彼は談話室の隅で、余り周囲と関わらずに済むよう静かに佇んでいた。しかし迷惑そうな顔の割に、彼を連れてきたもう一人の新入生を置いて出て行く事もないと言う事は、案外情に厚いのか、それでなければ寂しがり屋なのかも知れない。
「どのくらい保つのかしら」
 先程から彼にしては愛想を見せてくれている事に期待して、彼女はもう少しだけ会話を続ける事にした。
「……院ではよく分からないけど、その花はそのうち変色するよ」
 その言葉は幾らか間が置かれた後に発せられた。彼が知る大地と院とでは、土壌も違えば気候も違う。それを踏まえて考えていたのだろう。
 しかし自分の尋ねた事であったが、それより色が移り変わると言う話に少しばかり興味をそそられた彼女は、視線を花から彼の方へと向け直した。
「どんな風に?」
「赤、と言うより紫色に」
 いい加減迷惑そうな色が浮かんできた彼に対して、彼女は妖艶な笑みを浮かべると手にした鉢を邪魔にならない位置に据えた。
 蕾も花も真白い小さく可憐な花々が、外から次第に紫に色付いていくのだと言う、その様子を密かに見守ろうと彼女は思った。色うつろう果てならば、この花も自分の傍らに似合う花になるかも知れない。
 けれど心の何処かでは理解しているのだ。その花は色を宿して尚、楚々とした印象を変える事がないと。
 それが、かの人の愛した花なのだから。