いつか飛び立つ鳥

 珍妙な取り合わせだ。
 レイヴは周囲を一巡してもう一度呟いた。尤もその音は外に漏れた様子はなく、自分の中でだけ大きく木霊した。
 来期から新教室へ移動すると噂されている四名は、噂を裏付けるかのように揃って呼び出され事務の一室に揃っていた。元々出所からして信憑性の高い話だ。シリアルプレート登録書き換えの為だろう、と容易に想像がつく。
 日頃、事務部に待たされると言うことはない。優秀なる院生たちの運営によるところが大きいだろう。今回は彼らの訪問より僅かに早く、かの迷いの森の主が問題を持ち込んだらしい。事務はそれの対応に追われていて、一行に──と言うよりはその中の一人に気付いたのだろうサラが回してくれたのが、この部屋だった。
 一応待合室の形を取っているが、感覚鋭い彼らにとっては普段使われていない部屋独特の空気がした。と言っても手入れは行き届いているらしく、文句はなかったのだが。
 手持ち無沙汰になると知っていればせめて、本でも持ってきていれば表情に困ることもなかったと言うに、どういう因果か息一つするにも気を使わねばならない状況だ。
 彼らが押し黙って、居心地の悪い思いをしている理由はもう一つ。
 金と黒の色を宿した人を一瞥して、レイヴは瞳を伏せた。
 瞑想でもしているのか微動だにせず沈黙を漂わせた彼の存在は、他の三人を押し黙らせるに足る重厚さを持っていた。その頭に陰鬱な、と付け足したい程。

 予め知っていたとは言え、実際に目にすると違和感を感じずにいられない。どういった選出で彼らが集められたのか、他教室に比べ何の統一性も感じられない。
 当然、顔は見知っている。
 だが親しいかと問われれば否と答えるべきだろう。
 レイヴ・マダードにとって、彼らはそういう存在だった。
 無論、兄も。
 ──強いて選出に理由を付けるならば、自分たちに何かの関係が見出された故なのか。
 レイヴは長い指先を額に押し当てた。
 兄と自分と言う双子。そして院内一の問題児とされるラメセスと、彼との因縁浅からぬと言われている四学年主席イクス。
 ふと順に巡らせていた視線が偶然合って、これから彼らが所属する教室の教室長となる青年が強張った表情を緩めて見せた。
 教室を変える、その事に対してレイヴ自身の不満はなかった。どの道、彼が今現在所属するサイファ教室は閉鎖されるのだ。それを最初に聞かされて、それでも良いと答えたのも彼自身だった。新設の教室に配属されるとは思っていなかったが、却って楽ではあるだろう。
 それにしても所属の学生が少なすぎる。
 と言うことは来期から新入生が加入される可能性がある、と言うわけだ。可哀相に、と心の中で思いながらレイヴはにこりともせず会釈だけ返して視線を虚空に動かした。
 こんなメンバーの集まった教室に入るのに、新入生では荷が重いだろう。

 と、軽い音を立てて不意打ちのように扉が開いた。入り口に立った一人の若い男──のように見える彼に、室内の眼が思い思いのテンポで集まる。大きく開かれた扉から、彼をすり抜けて別の風が流れ込み、暗く溜まった室内の空気を一掃しているようだった。
「あー、もう知ってると思うが」
 彼、当代最高位の院の騎士フォウル:オナー・ホワイトは全員の視線が向いた事を確認すると、そう言って笑みを浮かべた。
「お前たちを本日付けでルクティ教室に配属する」
 猫のそれに著しい近似性を見せる瞳がきゅっと細められる。
 何が可笑しいのでもない、満足の笑みだ、とレイヴは気が付いた。

 こうして四人の若者は集められた。
 その教室の名も、いつか飛び立つまでの仮の住まいではあったが。