Do you like the animal?

 ルクティ教室の面々で何時からか始まった、恒例のお茶会。
 昨日の実習で、人をも凌ぐ知性を持つ動物たちが住む世界に赴いたイクスたちは、この時も動物の話をしていた。
「──リートは兎だな」
 にっと笑みを浮かべ、ロアンはティースプーンでリートを指した。
 イクスは言われて体長の小さい啼兎を思い浮かべ、特別深く肯こうとは思わなかったが、幾らか納得するところもあった。尾も耳も小さく黒褐色の身体で「ち、ち」と小鳥のように啼くあの兎は、愛らしくて無邪気で、成程、逆にリート以外の面子には似合いそうもない。
「兎ですか」
 ん、と当の本人は首を傾げ、微笑んだ。
「では、寂しいと死んでしまうのです」
 そうだな、大事にしてやらないとな。と軽く応えたロアンと対照的に、イクスの知識内には“ウサギは寂しいと死んでしまう”と言う言い伝えがないらしく、不思議がっている。
 くすりと笑みを零し、ロアンは次にイクスを指した。
「教室長はキリンて感じだな。取り敢えず背が大きくなっただけ」
「おい、ロアン」
 確かな侮辱に、さすがのイクスも眉を顰める。が、
「キリンさんは好きです。お母さんみたいですよね」
 意図はしていないのだろう。
 リートがやんわりと二人の間に入り、イクスとロアンは自然に顔を見合わせると、肩をすくめた。
 キリンを母性を感じる動物と評すことで、歴とした男性であるイクスを慰めようと言うのなら、それは少し的を外しているのではないだろうか。無論、好きだと言われて悪い気にはならないが。
「でも……」
 リートは微笑みを浮かべたまま、密かに言った。
「ゾウさんの方が、もっと好きです」
 幸いそれは、既にロアンに似ている動物を探していたイクスの耳に届かなかったようで。
 ロアンに似た動物として幾つかの候補が挙がっては、却下される。決め付ける事の困難さを感じ、イクスは唸った。
「リートはどう思う?」
「えぇと。フラミンゴかな、と思うんです」
 随分と意外なところを突いてくる選択に、言われたロアンは少し目を細める。
 フラミンゴと言えば、顎と足が細長くシルエットの美しい紅鳥だが、群棲しなければ生きていけない、兎よりも寂しさに弱い一面を持っているのだ。
 自分がそんな風に捉えられた事は珍しくて、ふと本音の部分で苦い笑いが広がった。
 ただそれを見せるつもりはなく。
「じゃ、レイヴは森の物知り博士フクロウってところか?」
 双子だけに鳥でまとめて、あの本の虫を表現してみる。
 そうですね、とリートが相づちを打ったところで、そこにフォウルと刹が現れた。
「お、何の話してんだ」
「誰が何の動物に似てる、って話です」
 へぇ、と猫目石の双眸を弛める。
「じゃ、オレは?」
 その問いに、何の打ち合わせもなく期せずして全員の声が合唱した。
「猫」
「猫しかないし」
「猫です」
「猫……」
 何も全員で狙ったように言わなくても、とフォウルは笑うが、彼に関してはそれ以外の動物を当てる方が難問だと言えよう。
「じゃ、ラメセスなんかは? あいつも猫っぽいだろ」
 ふられて、つとイクスの口から声が挙がった。
「猫は猫でも、あいつはヒョウとかトラでしょう」
 そっちの方が格好いいじゃないか、と本気か冗談か分からない調子でぼやいて、フォウルは一つ大きな笑顔を見せると、急ぎの用事でもあるのか腰を下ろさないまま手を振り、向こうへ歩を進める。
 その背中を追おうとした刹に、ふいっとロアンが先程から宙に浮いたままだったスプーンを向けて言う。
「小型犬。きゃんきゃん吠えて、しっぽ振る奴」
「なんだそれ。なんかバカにしてるだろ」
 フォウルに対するものとは明らかに格差のある喧嘩腰で、刹がロアンを振り返る。それこそ犬猿の仲と言うものなのか、この二人はどうにもウマが合わない。
 しかし次の言葉が誰からも発せられない内に、刹が遅れている事に気付いたフォウルが彼を呼ぶ声が、辺りの空気を振動させる。
「はぁい! 今行きます」
 直ぐさま向き直り、ロアンのことなど忘れたように駆け出して行く。
 ──その後ろ姿にふさふさとした尻尾が生えていないのは、確かに不思議だった。