傍観者リートはかく語りき
聞いて下さいますか?
スィフィルさんがベッドに潜り込んで泣いてらっしゃるんですけど、何かあったんでしょうか。
僕はよく分からないんですけど、ひょっとして昨日見てしまったあのやりとりに秘密が隠されている気がするんです。
どうか話を聞いて、僕がどうしたら良いのか教えて下さい。
それは僕が一人で午後の散歩をしている時でした。
何かを訴えかけるような声が聞こえたので、そちらに行ってみたんです。
そうしたらスィフィルさんが木に向かって、何度も同じ言葉を繰り返してるんです。
「付き合うておくんなはれ。お願いや!」
……ええと、僕、スィフィルさんがこの木をこんなにお好きだなんて知りませんでした。
話しかけるタイミングを失ってしまったので、僕が困っていると、ふいに脇道から僕の教室の先輩でいらっしゃるロアンさんが現れて、スィフィルさんに声をかけられました。
「うわぁ! 何見とんねん!」
何故かスィフィルさんはとっても慌てて、赤くなってらっしゃいます。
「お前、えーとリートの同室だろ。知ってるぜ」
知ってるって……僕、ちゃんとお二人を紹介した方が良かったんでしょうか。
「ボクもあんはん知ってまんねん。院で一番のナンパ師やろ?」
「愛の伝道師、にしとけよ」
ちょっと何処かの世界の鬼人のようなことを言って、ロアンさんがくすりと微笑まれました。
スィフィルさんは親指を口元にして、爪を噛まれたようです。
「なぁにが愛、やねん。一万回“好きや”って言うても、一回の“愛しとる”には敵わんで」
そうなんですか!
僕は一つ利口になったようです。院では色々と学ぶことが沢山あって嬉しいです。
でもロアンさんは、その後にすぐこう言われました。
「オレは一億回“好き”って言うからいいの」
一億回なら釣り合うんですね!
スィフィルさんもそれを知らなかったのか、少し黙っています。
そこにロアンさんが続けました。
でも僕、ここでどうして突然エファさんの名前が出てくるのか、よく分からないんですけど。
「それと。エファは難物だぞ」
とにかく、ロアンさんがそう言われた瞬間、スィフィルさんははたから見ていた僕がびっくりする勢いでばしばしと傍らの木を叩かれました。
……駄目ですよ。その木が好きなのに虐めちゃ。これがこの前ロアンさんの言ってらした“好きな人をいじめたくなる人もいる”って事なんですね。
「なななな、なして知っとんねん!」
揺らすのも駄目ですよね。木が可哀想じゃないですか。
「ほんのり好きです、に留めておけ。泣きたくないならさ」
「余計なお世話や色男!」
もうこの辺りは僕には理解不能です。
でもスィフィルさんは分かったらしくて、叫ばれた後は踵を返して向こうに走って行ってしまったんです。
なんだか、お二人だけで僕には分からない秘密の話をしてらっしゃって、ずるいです。
「……反応がうぶで可愛いなぁ。な、リート」
ふいに、そうロアンさんは僕の方を向いてないのに言われて、出て来られた方へ行ってしまいました。
よく分かりませんけど、僕がいたことには気付いてらっしゃったみたいです。
だったら説明していって下さっても良いのに。
と言うのが昨日の話です。
ね、不思議な話だと思われませんか?
あ、もう授業ですね。じゃあ僕行きますから、スィフィルさんが泣いてらっしゃる理由がもし分かったら教えて下さいね。
僕、お役に立ちたいんです。
それじゃ、また──
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