With you

 東校舎と西校舎に挟まれた中庭の一角。
 人目に付きにくい木陰の下で、飛び抜けて明るい金の彼と落ち着いた黒の彼女が背中合わせに座っていた。
 彼──ロアン・マダードの方は一人で喋っている。と言っても、聞いている相手が別の作業をしているので端からそう見えるだけで、実際には相手が話を聞いているのを知っているから、彼は気にしていなかった。
 彼女──エファ=ミレオは髪の毛を弄びながら、レポートを読み直している。ただその聴覚は他愛もないお喋りを続けるロアンの方を向いていて、時折相槌を打ってやった。
 背中合わせに伝わるお互いのぬくもり。
 でも、その心が別の方向を向いていることを、どちらもが知っていた。

 叶わない想いに潰されそうで独りではいられなかったから、あなたを選んだ。
 “エファ”だったのは、偶然。
 “ロアン”だったのは、偶然。

「オレじゃなかったら、誰が良かった?」
 そりゃ、『あの人』は別としてさ。
 軽口の延長のような調子で投げかけられた言葉に、エファはロアンが思いも付かなかった反応をした。
 つまり、前触れもなく手にしていたレポートの束で、後ろ向きのままロアンの頭を叩いたのである。
 痛みはそれほどでないものの、完全な不意打ちに唖然としていると。
「馬鹿ね、いやよ」
 きっぱりと言い切られたその台詞。
「ロアンがいいの」

 叶わない思いを抱えて独りではいられない、あなたを選んだ。
 “ロアン”だったのは、必然。
 “エファ”だったのは、必然。

「……オレも、エファがいいや」
 想いの総てを掛けてはあげられないけれど。
 想いの総てを掛けるわけにはいかないけれど。
 今この時、あなたに心を預けよう。

 微笑んで、ロアンはエファの背中に寄りかかり直すとまた他愛ない世間話を続けた。
 エファもまた、少し歪な形に曲がったレポートを直して視線を戻した。

 この人といる。
 この人がいい。