有限の可能性
「最初にするのは、なにをすべきか考える事じゃない」
「まず、周りを見ることだ。自分は何処にいるのか──何処に繋がる道にいるのか、何処へ行くことが出来るか。それを知らずに行動することは出来ない」
「現状を知り、受け入れた者だけがその先に進めるんだ」
懐かしい言葉だ。
あの時はどこか茫洋とした頭で聞いていた言葉を、今になって明確に思い出せると言うのがどこか可笑しくて、自然、笑みが零れた。
こいつがあんな事を言うからだ。
ひょんな事で知り合った、青い瞳の男。その髪は本当の色を隠すために何かで塗り潰したような、酷い赤だった。
或いは、演出なのだろうか。
そのズボンに隠された鈍色の凶器と、長い間抱えていたファストフードの油っぽさで薄れた血の匂いもそうであるように。
『現実を見据え、諦め、受け入れ、それから現状を打破しろと言うのが信条なんだ』
難しいな。
お前の言うことは、どれだけの月日が経っても変わらず難題だ。
でも、判ったよ。現実を否定して得られる物は空虚だ。
思索と──認めたくはないが脚幅のせいでかなり歩みが遅い筈のオレに合わせて、ゆっくりとしたテンポの足音が響く。誰かがやっているのを見れば鼻について仕方ない動作が、こいつがやると妙に普通だった。
『お前はここにいる。それが現実だから、受け入れるしかないだろう?』
そうだ、オレはここに生きている。
純粋に笑っているようでいて迷惑そうにも見えたその表情はどこか、記憶の隅に残る何時も仕方なさそうに笑う彼を彷彿とさせた。
どんな顔をしたら良いのか、分からないんだな。
器用そうでいて、とんでもなく不器用で、それでいてやっぱり器用な奴。
なぁスバル。
まるで似ていないのに、こいつはお前と同じ匂いがするぜ。
それとも、不自然なほど似過ぎている?
「判ったかい? 選択肢はそんなに多くないんだよ」
「でもフォウル、お前には……無限の可能性があるかもしれないね」
「だから託そう」
きっと掴み取ろう。お前とオレとが探し続けた未来に繋がる選択肢を。
その時はじめて、未来は今日になる。
有限という殻を捨てた可能性が広がる、光の未来がこの手に入る。
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