非武装宣言
『武器を持つな! ──あなたはエデンです』
最初に強く断じられて、その後叱られた子供そのもののご様子で立ち尽くしていらっしゃった詩乃様をフォローされるように仰有られました。
あの方の表情が、脳裏を離れません。
ええ、その時の表情が。
何時も綺麗にお笑いになる方ですけれど、あれではまるで──
「どうしてあんな事を」
揶揄するような詰るような、どちらの色も半々に含ませた調子で放った問いに、彼は初め何を指しての事か分からなかったようだ。
それとも、分からない振りだろうか。
「お姫様に銃を持たせたのがそんなにお気に召しませんか」
疑問に対して返されるのは、いつも、否定とも肯定ともつかない曖昧な笑み。
感情を顕わに出さないその内心を読むのは楽な事でない。けれど、決して出来ないことでもない筈だ。
例えば、彼が主人に武器を持たせたくなかったと言う事実。
「意外と子供なんですね」
それとも、信じているのだろうか。この国には純白の汚れなきエデンたち──エデナが住まうという幻想を。
この国に裏切られた彼が。
思いが顔に出ていただろうか。軽く首を振って、彼は独り言のように呟いた。
もっともそれが何番目の問いに対する答えだったのかは、よく分からなかった。
「人殺しは私だけで十分だ。それ以上の意味はない」
白状いたします。
あの方の笑みは、まるで偽善者のようでした。そしてとてもとても──詩乃様に似ておりました。
……あの方の名前、ですか?
はい、周 タフト様と仰有います。
【完】 戻る