きっと倖せは

「倖せって、あると思うかい?」
 唐突な質問に、目の前の猫眼がしばたく。
「なんだよ、いきなり……あんたって時々変なコト聞くな」
 変なコト、か。
 ただ何となく考えるだけだ。
 あの日、永遠に続くと信じていた日々が、もう二度と戻らなくなったあの日に。
 自分の倖せは消えてしまったのだと。
 その時の絶望が、嘆きが、今も脳裏に残っている。
(失くしてしまって初めて、倖せだった事に気が付くんだ…)
 と、掌に暖かいぬくもりを感じた。
 いつの間にか伏せていた瞼を持ち上げると、猫眼の少年が窺うように見上げている。
 何時になく真剣な眼差しで、容貌の割に老成した雰囲気が滲み出る。
「あのさ、あんたが何考えてんだか知らないケドさ」
 一呼吸おいて、やや早口にまくしたてる。
「オレのシアワセは、あんたの手を取った時から、ずっとココにあんだぜ」
「フォウル……」
 驚きが、そして喜びが、思わず顔に出たのだろう。
 こちらの表情を見て取ると、してやったり、と言いたげに少年にも笑顔が広がる。

 ああ、そうなのか。
 きっと倖せは手を伸ばせばそこにあって──

 少年は頬を弛めて目を細めると、ゆっくりと口唇を開く。
 それは倖せな夢を見ているような顔で。
「オレも、誰かのシアワセになれるかな」

 なのに、どうして見失ってしまうのだろう。