• 2010年06月登録記事

オークシイ著、中田耕治訳「紅はこべ」

【あらすじ(最後までのネタバレ有り)】
フランス革命後、ギロチン行の貴族達を謎のイギリス人「紅はこべ」が救出していた。イギリスの大貴族に嫁いだマルグリートは、敬愛する兄の命と引き換えに紅はこべの正体を探るよう脅され、夜会で知った、紅はこべが明日亡命者たちと落ち合うと言う情報を革命政府全権大使ショーヴランに教えてしまう。だが翌日、愚鈍と疎んでいていた夫パーシーが紅はこべであったことを知ったマルグリートは、夫への愛に目覚め、自ら彼を追って危機を知らせようとする。三者の追跡と駆け引きの末、紅はこべによる亡命者と兄の救出が果たされる。そして互いへの疑心が晴れた二人は、愛を確かめ合うのだった。

先日感想を書いた舞台「スカーレット・ピンパーネル」の原作「紅はこべ」。

何種類か出版されているようですが、私が読んだのは河出文庫版。
頁を開いた途端、最近の本と異なる細く小さな活字体に、なんだか昔の文学集を読んでるようなワクワクした気持ちになりました。
訳は、ちょっと接続詞が変だなと思う所もありましたが、そんなに引っ掛かることなく読めました。

期待通り面白かったですが、原作はマルグリットの視点中心に進むため、パーシーを主人公にした冒険活劇である舞台版に比べると、心理劇の面の要素が強いでしょうか。
二人が結婚済の時点で物語が開始していることや、皇太子ルイ・シャルルの救出やパリでの痛快な活躍がまったくないことから、舞台版の脚本を書いたナン・ナイトン氏は凄い膨らませ方をしていたのだな、と大変驚きました。
もし先に原作を読んでいたら、舞台版に違和感を感じたのでしょうか? しかし根底が同じ作品であることは間違いなく、私は違和感なく両作とも楽しめました。
読んでいて、ところどころ「怪盗ゾロ」を思い出しましたが、あれも謎のヒーローと、その正体を知りたいヒロインのお話ですね。

原作ではアルマンがマルグリットの兄(舞台では弟)であることは予め知っていたのですが、アルマンが好男子な上、マルグリットが異常に兄想いなので、自分がパーシーだったら少し妬けるような気がしました。
弟だと、あの愛情過多も多少許せるし、パーシーに救出を懇願しても良い気がするのですが……。
これは勝手な想像ですが、普通に格好良くてビックリした明日海りおのアルマンは、もしかすると原作を参考にしたのかな?と思いました。

ショーヴランが有能だったので、敵として怖さが増していました。でも、どの要素で紅はこべの正体に気付いたのかは不思議。食堂で寝てるパーシーを見付けた段階では、彼の事は疑ってませんでしたよね。晩餐会から帰宅するマルグリットと話すシーンの時にはまだで、彼が出発してから気付いた?
一方の紅はこべの扮装は、途中で勘付いたため、そんなにあっと驚く面はありませんでした。どちらかと言うと、鞭打ちされた上、ショーヴランへの直接の仕返しなしのままと言う展開に驚きました。

続きのシリーズ作品があるようなので、そちらで報復したのかな。

日誌再録小話群に「逃亡」「道を示す者」の2作を収録。

後者は、2008年5月に公開して、ブラッシュアップするかも知れないとそのまま再録しないでいた作品です。
今回サイトに収録するにあたって、タイトルを付けましたが、なかなか思い付かず難航しました。
結局、シルヴァラント編でのクラトスが演じた役割と言う事でこのようなタイトルにしてみましたが、如何でしょうか。

先日発売された「ゴーストトリック」が面白そうです。
と言うか、ブクマサイト管理人さんのプレイ率が凄く高い。

ちなみに、発売日延期と言うのはゲーム世界でよくあることですが、発売日前倒しと言うのはこのゲームで初めて聞きました。

公式サイトで遊べる体験版がそこそこの内容で、システムの大体のところを把握できて良いです。
http://www.capcom.co.jp/ghosttrick/
時間制限があるので焦るけれど、要はパズルゲームってことですね。
台詞が軽妙なタッチで面白いです。逆転裁判ほどクドさを感じないのも、個人的に嬉しいところ。
ミステリーと言うジャンルやゴーストと言う名前で身構えたほど怖いゲームじゃないようなので、将来ニンテンドー3DSを買ったら遊ぶゲームの一本としてメモしておくことにしました。
……3DSにDS互換がない可能性を全く考えてません。

アーネスト・ヘミングウェイ著「誰がために鐘は鳴る」上巻のみ。
前回のヘミングウェイ作品でも苦しんだ「主人公の一人称なのに、何を考えてるのかさっぱり分からない」点に今回も悩まされています。
また今回は、ゲリラの一人の言葉使いが意味不明なところがあり、最初は何度か引っ掛かりました。原語に忠実に訳すとこうなってしまうのかと思いますが、日本語として分かり易く書いて戴けないものでしょうか。
翻って考えると、児童文学の訳はどれも秀逸だと思います。

本の粗筋などでは恋愛小説のように紹介されているけれど、今のところ主人公は鉄道爆破のことを意識の一番上に持ってきているので、戦争小説の側面の方が強く感じます。
「武器よさらば」同様、主人公とヒロインが恋に落ちることに理屈がないのが面白いです。
雪の中持ち場で待っていたアンセルモ老人と、迎えに来たロベルトのシーンは少し惹き込まれました。

次回宙組本公演の予習として読んだのですが、場面展開が少なく、閉鎖空間での人々の思惑の交差が主と言う感じなので、これをどう一本物の舞台として成り立たせるのか、不思議です。

「変な話じゃないか」
 しばらくして興奮の波が通り過ぎると、一人が疑問の声をあげた。
「俺たちの中の、誰がやったんだ?」
 ナチスの将校殺し――そんな大事件を計画し実行した者を誰も知らないとは、奇怪しなことだった。
 レジスタンスも一枚岩ではない。だが、大金星を挙げて沈黙している者がいるだろうか。
 彼等は顔を見合わせた。
「警察連中は、北アフリカ地域の同志を追ってるらしい」
「集会に踏み込まれたお返しか?」
 英雄、ヴィクター・ラズロと面談するためこの街までやって来た彼等が、目的を半ばも果たせず、それどころか不慣れな土地に迷って幾人かの同志を失う羽目になったあの夜の騒動は、確かに火種として十分な出来事だった。
「だったら署長を狙って欲しかったぜ」
 集会に踏み込んだのは警視総監のルノーであるし、あの立派な腹が職権で肥やされていることは衆知だ。
「どうかな」
 応えたのは小さな呟きだった。
 同志たちから問いかけの眼差しを集め、彼は心の内に落としたつもりの言葉が音になっていたことに気付いたらしい。
 軽く肩を竦めると、手にしたコアントローで乾杯して言った。
「署長が死んで、ドイツ野郎が生きていたら、俺たちはここで酒を飲んでられないだろ」


今更な宙組公演「カサブランカ」SS。個人的にはまだまだネタがあるので、今更と言うわけでもないのですが。
映画よりストレートな二人の友情からすると、終幕後の翌日、ルノー大尉がすることはリックの店営業停止命令の撤回だと思います。
もちろん、あの店で飲むのが好き、という個人的な理由も含めて。