「本当に持って来ちゃって良かったのかよ」
ウルの視線の先、変態レスラー吸血鬼が肩に担いだのは、汗と涙で薄汚れ輝きを失ったアルミ製ロッカーである。
「大丈夫だら」
男はいかなる自信があると言うのか頷き、おもむろに肩の荷を下ろすと仲間たちにそれを示した。
空の下、大きな音を立ててロッカーが開かれる。
「みんなも遠慮せずに使うだっちよ」
「え、そうやって使うの?」
思わずウルが問い、仲間たちも覗き込む。そこにはヨアヒムの衣装、以前の武器、そして皆が持ち歩きたくないので押し付けあっていたあのビルダーカードのケースが、整然と収められていた。
ウルたちは顔を見合わせ、自分達の荷に目をやり、そしてもう一度顔を見合わせた。極力荷を少なくするのが旅の上策であるが、捨てられないものは出てくる。不要の道具とて、ピエールの店に持ち込めば幾ばくかの金になるものを、捨て歩きたくない。
「そんなに言うなら、まぁ使ってやっても良いぜ」
最もらしく言って見せたウルだったが、その口許は確かに緩んでいた。
古くなった道具、今は効用を発揮しないアクセサリー、コーネリアの着替え、食べかけの骨、化粧品……。それらすべてを腹に収め、一行の前を行くアルミロッカーとその持ち人が誇らしげに見えたのは錯覚だろうか。
その時。
「敵よ!」
茂みから飛び出た影に反応したカレンが警告を発し、同時に腰の細剣を抜いた。最早その神速の動きを阻む重荷はない。旅の最中埋めるわけにもいかず持ち歩いていた宝を保管でき、憂いをなくしたブランカが躍り出る。
ウルとゼペットも、身軽になった体でそれぞれの戦闘態勢をとる。
そしてヨアヒムもまた。
「敵だっちな!」
充分にみなぎる気合いを言葉と化し、手にした頼もしい武器で、宙を一撫でした。――その扉が、開いていなければ様になったのだが。
窃盗したロッカーの鍵を持つ者は、一行の中になかったのだ。
沈黙の後、手の中のロッカーと目前に散らばった様々な道具を見遣ったヨアヒムは、あっと高い声をあげた。
過失への反応でなく謝意でもなく、喜色を伴って。
「これは良い飛び道具にもなるだっち!」
その瞬間、神殺しの男→ドイツ軍陸軍少尉→ドンレミの白い狼→人形遣いの爺と続く、華麗な四人連携が決まった。
競技場の男子更衣室に設置されてしまった不運なロッカー。あの時女子更衣室に運ばれていれば…と過去を嘆く彼の周りは、今日も男臭溢れるむちむちの筋肉達で囲まれている。
サンサンプトン・ガマのリング付近で拾得
2005年2月8日初出