ヨアヒムと愉快な鈍器たち

▼全国鈍器物語[レッドポスト]

 出航まで間があると知ると、仲間たちは好き勝手に散ってしまった。相棒を席取りに残し、ウルも羽を伸ばす。爺さんは酒場、カレンはたぶん服飾屋、ルチアはきっと甘味屋。どれに付き合うのも面倒だと公園に向かえば、そこにはヨアヒム。
 ただ、新しい得物の使い心地でも試しているのだろうと思っていた想像と違い、彼は手紙を読んでいた。
 奥底に眠っていた好奇心が目を覚まし、思わずウルは身を隠すと背後から密かにヨアヒムへ近付く。
「突然こんな手紙を送って申し訳ありません。けれど、もう秘め続けることもできないこの胸の内は、正直にお話しするしかないと思ったのです」
 なぜ音読なのかは知らないが、好都合というもの。しかも少しだけ懸念していた怪人レスラーからの果たし状だとか、師匠の有難いお言葉集とかいうものでもないらしい。
「あなたと初めてお会いしたあの時から」
 もしやこれは“らぶれたあ”と言う、あの甘酸っぱい名前の手紙ではないだろうか。
「私はただ一人あなただけをお慕い申し上げております」
 おお、とウルは心中に雄叫びを上げる。
「何を望んでもおりません。あなたを恋い慕う娘がここに居ることをお心に留め置いて頂ければ、それが私の幸せです……おわりだら」
「おおー、健気ちゃんだな!」
 変態吸血貴族レスラーの割にやるじゃないか、と遂に声を上げたウルは、突然現れた仲間に驚くヨアヒムの手から件の手紙を奪い取った。
 気になる純情可憐な差出人の名前は。
「えーと、クラリスちゃんね。可愛い名前じゃないかー」
 出会いはルアーブルかそれとも故郷か、と問い詰めようとしていたウルは、ヨアヒムからの反応が全くないことに少しばかり機嫌を損ねた。
「なんだよ、反応悪ぃな。もっと喜べよ」
 それとも相手はカルアのような大年増だったり、オカマだったりするのだろうか。以前から何かとあの人種に縁があるため想像で立ってしまった鳥肌を鎮めようと、ウルは差出人が(美)少女である証拠を探して手紙を丹念に改めた。
 使っているのは花柄でピンクの可憐なレター。その上に書かれた文章は、ミミズがのたうち回った文字しか書けないウルにとっては目が潰れそうなほど美しい。署名はクラリス。そして宛名は確かにヨ――
「愛しいヨハンさまへ……?」
 不審に持ち上ったウルの視線の先で、ヨアヒムは新しい鈍器――真っ赤な郵便ポストを開け、中を漁っていた。そして取り出した手紙を手に、妙に胸を張る。
「一通一通に込められた想いの重みが、悪を粉砕する力になるだら」
 鴉が鳴いた間の後、ウルはクラリス嬢の手紙を地面に叩き付けた。
「人の手紙かよ!」
 期待して損した、などという程度でない。
 だがウルの怒りなど理解もせぬヨアヒムは、新たに取り出した一通を破り、とうとうと読み始めるのであった。
「次はデリス・カーラーンのユアンさんからのお便りだっちよ」
「つーか読むなって!」

▼鈍器データ

▽アイテム解説(ゲーム内より引用)

戦地におもむいた恋人や、単身赴任の夫。そんな遠く離れた人々との心をつなぐ郵便箱。
人々の思いがぎっちり詰まった一撃は、どんな刃物よりも痛く、ちょっと心にほろ苦い。

▽入手方法

SG団伊太利亜支部攻略後にウェールズで拾得


2004年12月6日初出