ヨアヒムと愉快な鈍器たち

▼全国鈍器物語[チルドテューナ]

 クマの親子がうろつく極寒の地に骨董品のような老人を一人残し、一行は走った。ひたすらに走った。そして気が付いた時には一路南へ、日の本の国の中枢近くへ向かう船の中だった。
 様々な問題を棚上げすることで解決し、ほっと息を吐き出す。
 そんな中、異変に気付いたのは、例のごとくブランカとルチアだった。
「なんだかぁ、変なニオイがするわぁ」
 言われ、鼻孔を動かした彼等はその衝撃に言葉を詰まらせた。
「な、なんじゃ?」
「まったりとしていてくどいほど鼻につく臭いだぜ……」
 出所を探す一行の視線は、ヨアヒム――が抱えた鈍器に向けられた。
 極寒の地ペトログラードで見付けた、見事な冷凍マグロ。
「もしかして」
 溶けてる?
 その問いは言葉にするまでもなく、全員の脳裏にあった。
 温度を感じさせないイーダルフラーム内部ではそれの危険性に気付かなかった。バチカンはアポイナの塔へ向かった時も、行動は冷え込みの強い夜間に限られていた。雪に覆われた北海道も未だ良い。だが、長らくあの手に握られ、強豪と渡り歩く戦場の熱気に当てられたマグロが、何時までもその身を凍らせているだろうか。
 答えは否。
 だが捨てるよう言い聞かせても、現在一番気に入りのうえ威力もある鈍器を彼が手放すわけがなく、恐怖を乗せたまま船は南へ舵を取る。
 それは悲惨な光景であった。
 一行が押し込められた三等客室の中、溶けゆく本マグロ一尾。
 生臭い。
 顔が映るほど磨き上げられた家と、次々に運び込まれるふんだんな料理。そんな豪勢な生活に慣れた皇女でなくとも、これは生臭い。
 ミュンヘンの薔薇侯爵と謳われるケーニッヒ家に生まれながらも、貧乏には敵わず、密かに池のコイを釣り上げて食べていた。そんな貧乏出身の少尉であっても、これは生臭い。
「今回ばかりは早く次の武器に会って欲しいわね」
 みんなの心はこの時ひとつになった。

▼鈍器データ

▽アイテム解説(ゲーム内より引用)

不治の病に冒された本マグロ。未来なら治療法が発見されてるかも。そんなわずかな希望に賭け、彼は冷凍睡眠の装置に入った。いつの日か再び、太平洋を泳ぎ回る日を夢見て…

▽入手方法

イーダルフラーム浮上後ペトログラードの広場端で拾得


2004年12月16日初出 2005年2月4日誤字修正