ヨアヒムと愉快な鈍器たち

▼全国鈍器物語[魔建ビルディング]

「で、その小人さんはなんて言ってんの?」
 その異様な建造物から聞こえる喧噪は、日毎増すようだった。だが、中には聞ける言葉で話している者もいる。
 ウルの求めに応じ、ヨアヒムはその不思議な建造物を両手で振り、内側からの声に耳を傾けた。ばしょん、べしゃこん、げちゃん、と何かが散乱する音の方が大きく聞こえたけれど。
「なんでも」
 とヨアヒムは切り出した。
「ゲームを作ってるらしいだら」
「ゲーム?」
 問い返しはしたが、話を続けようと言う積極的な意図があったわけでない。
 何時もの通り暇つぶしのつもりでギョレメの谷へ来たはずが、今回の試練は魔法使いだけで臨まねばならない、とサラが言うので、時間ばかりが有り余ってしまった。あまり逆らってお化けが出ても怖いものだから、仕方ない。どうせならばもう少し待つのが楽しい所で試練教室を開いてもらいたいところだが。
「ちぇすとか、しょうぎとか?」
 ウルが、知るゲームの名をあげた。もっとも、母の知る洋物の遊戯は手に入る環境でなかったし、父はそう言う遊びに疎い人物であったから、彼にとってそう言うゲームは、あくまで名前だけの存在でしかない。
「違うだら。ぴこぴこ言うやつだらよ」
 答えている者もよく理解しているわけでない。それが分かっている為に、ウルは微かに広げた鼻腔に気のない応えを通した。
 元気印の皇女や人形遣いが帰ってくる気配はまだない。
「で、どんなの」
 ヨアヒムが再び建造物を振った。しがっちょん、ぎゃばん、ぼこぱん、と容赦なく何かが破壊される音が流れてくる。
 それから暫くもっともらしく肯いていたヨアヒムは、はっきりとその名を口にした。
「シャドウーズ、だっち」
 ウルが口を開いたのは、時間が経ってからだった。
「は?」
 喉はそれ以上の音を発っする事なく、しかし閉じることもなく、ただ世界に向けて開かれていた。
「シャドウーズ」
 一部分を妙に強調し二度答えたヨアヒムが説明を続けた。どんどん酷い音ばかりが渦巻く建造物を、鍛錬のつもりか上げ下げしつつ。
「歴史の影の部分で世界を救うため、大英帝国から極東まで旅するパーを追う話だら」
 それがゲームの内容であるらしい、と飲み込んだウルの脳が、その味を審議するより早く、返事はなされていた。
「捨てちまえ、そんなモン」

▼鈍器データ

▽アイテム解説(ゲーム内より引用)

魔剣ティルビングと共に、吸血鬼の一族に伝わる近代建造物。中のフロアでは、小人さんたちが昼夜休日を問わず働き続け、悲鳴や怒声の飛び交う修羅場を展開している。

▽入手方法

不死山攻略後ルアーブルうみねこ亭にて桃色コウモリから授与


2005年1月9日初出