ヨアヒムと愉快な鈍器たち

▼全国鈍器物語[ノーチラス]

 ヨアヒムは手にした至高の一品をもう一度眺め、沸き上がる喜びを堪能した。皇女から(口を含めて動かなければ)精悍と認められた顔も、これほど盛大に目尻が下がっていては注釈の付けようがない。
 だがそれにしても、今回拾った得物は格別素晴らしかった。
 海底二万マイルの水圧に耐え得る装甲、滑らかさと鋭さを合わせ持つこのフォルム、封印された最強の力、そして漢気溢れる小人さんたち。
 ヨアヒムは潜水艦を肩に乗せると、もはや他に新しい武器は要らぬと残りの旅路を駆け抜けた。純羊毛のカーペット、コントラバスにも目もくれず、ショーウィンドから蠱惑するマネキンの誘惑は振り切り、そうして遂に立ち止まったのは、魔の道を選んだ人を倒した時だった。
 その男を友と呼んだ、ウルとの会話によれば、この捻れた時空からは己が強く願った時へ戻ることが出来ると言う。その言に仲間たちは戸惑い、自分の心を確かめているようだった。
 ヨアヒムが、そして心は既に決まっていたのか老練の人形遣いが一番に進み出た。
 年月ばかりは過ぎたが、生きた時間は少なかったとヨアヒムは思う。ならば、彼が戻るべき時など決まっている。
 時の波が身体を持ち上げ、意識を掻き乱し、位相をずらしていく。
 そして彼は、彼が望んだ今に還ることが出来る。たとえ他の者と重なり合わずとも。
 咄嗟に、ヨアヒムは呼び掛けた。
「みんなも行きたい場所に行くだら!」
 その言葉を受けた彼等が、無い眼で彼をみやったのをヨアヒムは感じていた。
 家になりたかっただろうティンバー、女子更衣室を夢見たアルミロッカー、生涯現役でありたいと言ったレッドポスト、第四の人生を模索するのも悪くないと嘯いたアースンパイプ、行き着けぬ時へ渡り病を治したいチルドテューナ、もう一度あの日々に還りたい大黒柱、有力団体への移籍を考えた放送席、主君を想うはにわ、出荷次第南国への慰安を願う魔建ビルディング。
 やがて、心を決めたものたちが手を離れていく。そして――最後に、ノーチラス号の乗組員は、第一位の敬礼をもって彼に応えた。
「星の海へ!」
 愛する鈍器たちが望みの時へと移っていく。それを見送った意識は、彼自身をも運んでいく波に呑まれ、次第に白く塗りつぶされていく。
 ありがとう。今までありがとう。

 そして、彼等の旅は終わりを告げ、新しい日々が始まった。

▼鈍器データ

▽アイテム解説(ゲーム内より引用)

時を越え遙かな旅を続ける潜水艦。星の海を渡り、地球に流れ着いた所で現地人に拾われてしまう。星をも砕く主砲を搭載しているが今は男同士の約束により封印されている。

▽入手方法

わくらばの古城の教授成仏手順中にカンヌの砂浜で拾得


2005年2月25日初出