天の響

空を

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 戦争の道具、すなわち魔科学の発展はそろそろ頭打ちと言う感もあって、驚く程の新兵器にはお目に掛かったことがない。
 であるからして、遠い上空に大きく翼を広げた鳥のような機械を見付けたユアンの感想は、やはり出来たか、と言う程度のものだった。
 小回りが利き空中戦が演じられるような飛行機械の構想は、両国共にあった筈だ。片方で出来上がった以上、先を越されたもう一方の国でも直ぐに開発が始まるに違いない。と言うのも、マナをどのように変換して動かすのか、視る眼を持った者には一目瞭然なのだ。いわば互いに予想の範疇にある新兵器を使うと言う事は、相手が未だ気付けていなかった正答を与えると言う事になる。
 ユアンは動かされているマナを感じ取ろうと目を凝らした。
 これまで、物体を空に浮かせると言う固定観念のせいで、従来の浮遊装置に倣い風の精霊シルフの力を利用する方法で考えていたが、出来上がったものは雷の精霊ヴォルトを使役しているようだった。成程、と膝を打つ。しかしそれでは最も一般的な備品である電撃銃との相乗効果で雷のマナが強まり過ぎてしまうだろう。暴走を引き起こさないとも限らない。とすれば手を打つべき改良点は──
「見て、姉さま! 空を飛んでる」
 耽る思考を遮る形で少年の幼い声がした。
 続いて弟に手を引かれた娘が空を仰ぐと感嘆の声をあげた。萌葱色の髪が風を孕んで大きく膨らむ。
 その様子に眼を落としたユアンは、もう一度空に視線を向けて見た。見えるのは先程と同じ、高く乾いた空を悠然と飛ぶ人工の鳥。
 不意に新しい感動が胸に沸き上がる。
 本当だ、空を飛んでいる。
 三人は沈黙を友とし、銅色に変わりゆく空をただ見守っていた。

2003/12/03 初出