「星を数えている」
ただひたすらに降るような星空を見上げたまま、言葉だけが応じた。
「星を?」
一瞬気を抜かれた様子で、旅の仲間である男はそう繰り返した。
確かに、自分と星見とはあまり似合いの組み合わせでないかも知れない、とクラトスは思う。
けれど眠る必要がなくなったあの日から、その代わりとして彼には空を見上げる癖が出来た。
「随分と無為に過ごしているのだな」
やがて発せられた男の声は、幾らか怒りに満ちているようだった。
これまでどの土地へ赴いても疎まれ続け、その日の糧にも事欠き、多くの同胞を失い……ようやく彼らは天使化と言う切り札を手に入れた。これにより大戦の終結を迎えたのは良いものの、到底喜べないマナ不足の現状。彼らはこれを解消し世界を存続させなければならない。しかし今度はその過程で仲間の一人が病に倒れ、不眠不休で治療法を探す事となった。前例がないだけに予断を許さない彼女の容態。
暢気に星など数えている場合ではない、と怒るのもやむないだろう。
彼らが望む、何者も差別されない世界──そして古里への帰還と言う目標にはまだほど遠いのだから。
「私は元々人間だ。お前たちのように長き時を過ごす術を知らぬ」
「それは皮肉か、クラトス」
彼らの仲間はほぼ全てがハーフエルフで、クラトスはただ一人の人間だった。
その為か、彼は一歩遠い位置にいるように男は思っていた。本当の意味で理想に共鳴しているのか、それも怪しいと思いながら此処まで肩を並べてきてしまった。
苦難を経つつも理想実現に燃える若き盟主や、血気逸る所がある男とは違い、冷静ではあるが幾らか覇気に欠けるクラトス。けれどハーフエルフ達の悲願の為にその力を貸してくれている事も、また事実だった。
口を噤んだまま、クラトスは星空を仰ぎ続けた。
人間の一生は短い。一方ハーフエルフの一生は平均して八百年。そして天使の一生は──
「……我らがその気になれば、星など数え終えてしまうだろうな」
男は不意にそう言った。
無機化した身体。平凡な武器にはビクともせず、通常扱い切れぬ強力な技を用い、老いすらも超越する。永遠と言う時を今のままで生き続けられる、しかし変化のない生命体。それが天使化と呼ばれる戦闘能力だった。
「その前に終わらせたいものだな」
余り変化のないクラトスの声に、珍しく忍び笑いが混じった。
まさかその言葉通りになるとは、今は夢にも思わず。