その時、胸元の光がユグドラシルの目に留まった。
「……なんだ、これは?」
伸ばされた白い指先が掴み上げたのは、銀製のロケットだった。
それに応える形で、クラトスが顔を上げる。気怠げで緩慢な動きだった。覇気の欠けた昏い瞳がユグドラシルの姿を映す。
ぱちん、と硬質な音を響かせてロケットの蓋が開いた。
中身を一瞥して、ユグドラシルが眼を細めた。肉食獣が獲物を捉えるのに似たその表情は、彼の怜悧な顔にぞっとするほどよく似合った。背筋の凍る美しさ。だが、それにもクラトスは眉一つ動かさなかった。
「クラトスの息子か」
肖像が納められたその表面を軽く撫でる。
幸せな家族の光景だった。
確かに幸せ、とは奇妙な表現かも知れない。衰退世界を支配するディザイアン達から逃れつつ、貧しい放浪生活を繰り返していた筈だ。
それでも、其処にあるのは未来を目指す瞳だった。若い命を抱いた希望の光があった。眩しかった。
砕かせたのは自分だ、とユグドラシルは唇の端を持ち上げた。
今や残されたのは、在りし日を閉じ込めた首飾りを抱く、心の死んだ男だけ。
「ロイド」
ゆっくりと呼んでみせたその名前に初めてクラトスの瞳が揺れた、ような気がした。
最早絶望しか呼び起こさぬその名に、未だ反応を返す彼が可笑しい。
「生きていればクルシスの一員として迎えたかも知れないな。惜しい事をした」
喉の奥を震わせて笑う至高の天使を、ただ無感動に眺めるクラトスの右手が強く握り締められ──やがて力無く解かれた。