重なる罪
轟々と音を立てて山が燃える。海のように木々の上を広がった火が激しく踊り狂う。
無機化した肌をも焼く強い熱量を感じて、クラトスは遂に立ち止まった。
視界は火の色に染まり、その中で燃え盛る木々の影が黒く大きく蠢いていた。その下では、自然のものでない突然の山火事に逃げ遅れたらしい鳥たちや動物たちの無惨な死骸が重なっていた。眼を見開き、また断末魔の叫びをあげたのか口を広げたそれらの身体を、一瞬で炎が飲み込んでいく。
目的の品がこの場から失われたのは確かな事だった。否、今は未だこの場に在る。マナの鉱石アイオニトスすら溶かす異能の炎。これこそが求めていた神木の力に違いなかった。
この火が欲しい。けれどどうして手に掴めよう。
天から落ちた裁きの光が、すべてを灰と化していく。枯死した大木が崩れ落ち、視界を一層濃く朱に染めた。
神木を求め森閑の村に立ち寄った事を感付かれたのだろうか。精霊王と約する為生まれた古の智恵、契約の指輪。その可能性に彼も思い当たったのだろうか。だとすれば、自分はまたひとつ罪を重ねた。大地へと還っていくマナの流れが、その罪の証。呪詛の声が聞こえるだろうか。耳鳴りのように激しく火の爆ぜる音がする。
しかし今は立ち止まるわけにいかないのだ。
思い、クラトスは瞳を伏せた。足下から彼を呑み込もうと寄せ来る炎の波が、非難の声をあげているようだったけれど。
責めは総てが終わってから、改めて受けよう。必ずだ。
けれど今は一度諦めた見果てぬ未来の為に働かせて欲しい。山を焼くこの炎よりも熱く、太陽のように眩しいあの子供が切り開くだろう先を、導かせて欲しい。
踵を返し踏み出したクラトスの足下で、火の粉が跳ねた。
2003/11/15 初出