最後の客が出て行くと、賑わっていた店内の灯は瞬時に翳って見えた。
店の灯りが足りないわけではない。少し不可思議な雲は出ていたけれど、未だ陽の射し込む時間帯なのだから。足りないのは、明かりだ。雑貨屋パルマツールズの女主人カカオは胸の痛みを感じ、客の前では見せられない沈んだ表情を浮かべた。店の中に溜息が零れ落ちる。
娘であるショコラの笑顔が失われてから、彼女は何度同じ時を過ごした事だろう。
大通りを行き交う人々は、ディザイアンの直接的な脅威から解放され晴れやかな顔をしている者が殆どだった。確かにドア総督は喪ったが、これから訪れるのだろう再生の瞬間への期待の方が大きい。期待を抱かせる程に、今回の神子の活躍は目覚ましかった。
そうだ、神子がいる。今日までの心の支えは、娘を助け出すと約してくれた神子一行の存在だった。
処刑されかけた自身を救い、このパルマコスタを救い、そして悪しき存在に奪われた母を──眠りに付かせた神子の一行。
彼等の活躍を伝え聞く事で喜ぶのは何も彼女一人ではない。けれど殊更彼女が必死だったのは、他の者以上に切実な願いを掛けていたからだ。浅ましい事かも知れない。けれどこれ以上自分の手から大切なものを奪われたくなかった。
その希望の旅業について、噂が聞こえなくなったのはどのくらい前だろう。
一度話がまるで聞かれなくなった時には店を開けなくなった。酷く嫌な想像に押し潰されそうになった。
そして先日、久方ぶりに彼らはパルマコスタに姿を現した。未だ娘は助け出されていなかったけれど、総督府で交わされたと言う話によれば、再生の旅は順調に進められているらしい。希望は失わずに済むのかも知れない。
信じよう。女神に選ばれた少女を。
無事愛する娘が帰ってくるように。母のような犠牲がない平和な世界になるように。力無いこの身で出来る事は、祈ることと店を守り続ける事だけだったけれど。
きっとその祈りは、眠れる女神を呼び起こす。
ただそう願って窓越しに仰いだ空が、その時不意に揺れた。