いけ好かない奴だ、と言うのが第一印象だった。
と言うよりも、二度目三度目の邂逅においてもその印象は覆えらなかったので、ゼロスの中ではほぼ確定した事実となっている。
相手も似たような事を思っていたのだろう。こちらの姿を確認するなり、仏頂面の鏡のようだったその顔の眉間に、皺が一つ余計に寄った。
何様のつもりだ。
心の中で悪態を吐く。いっそ大声で問い詰めてやっても良かった。自分の立場を思えば、そんな事出来る筈もないのだが。
総てを知っているのだと言い出しそうな、その落ち着いた様子が憎らしい。そのくせ与える情報は小出しに、自分の思っている通りに人を動かそうとしている。
純朴な少年は、敵意を見せない彼の言葉に幾ばくかの信用をおいているようだったが、ゼロスにしてみればそう思わせる事こそが彼の目論見なのだ。巧みに人を操り、自らは少ない労力で効果を得る。
今もそうだ。国王を説き伏せあの面倒なユミルの森を抜け、遙々エルフの里ヘイムダールまで足を運ばせておきながら、本人は至極当然のような顔をして其処にいる。
そもそもこの歪な世界の仕組みを作り出した天使の一人。マナの血族を操り自身を生み出させた一因。そう思うだけで総毛立ちそうな程憎らしい。
けれど。
「霊草取得の後、救いの塔からデリス・カーラーンに向かえ。道は輝石で開かれる」
擦れ違い様の刹那、彼は微かに歩を緩め言葉を零した。
クルシスから直接与えられるものとは何処か違う、ましてやレネゲードのものとは程遠い彼からの指示。
本心は何処にあるんだ。
まさか直接聞く事も出来ないその疑問を飲み込み、ゼロスは肩を竦めた。
「りょーかい」
嫌味な事に、彼からの指示が一番ゼロスの心に叶っている。自分にとっては少々眩しくもあるあの少年、つい肩入れしたくなる一番阿呆で一番清々しい連中を結果として助ける方向性。
三者を秤に掛けている筈の自分も、或いは彼の思惑に踊らされているのだろうか。
本当にいけ好かない。