エルフ族の聖域に闇の帳が降りた。
その中にあっても、根元を司る精霊の王オリジンが眠る石版の黒は、夜よりも尚暗く自らの存在を主張している。
クラトスは炎を宿す魔剣フランベルジュを手に、ただ待っていた。
彼の待ち人は人間だった。この分だと、到着は恐らく明日の昼過ぎになるだろう。
そう思っても、彼は待ち続ける事を止めなかった。
眠る必要がない身体だと言う事もある。だが何より、長き時の最期になるかも知れないこの一夜を、眠って過ごす気にならなかった。
脳裏に浮かぶのは、四千年前の仲間、放浪の旅、愛する人──そして息子。
摂理に逆らう程の年月は自分から未来を奪ったのだろうか。思えるのは過去の事のみだった。
だが、それで良い。
そうさ、クラトス。忘却は罪だ。
声が聞こえる。
僕はこの悲しみを、苦しみを忘れない。
現と幻の狭間で、懐かしい友の声が繰り返された。
大丈夫だ、自分は忘れない。
仲間を守れなかった罪。変わっていく友を諫められなかった罪。愛する人を手に掛けた罪。
罪には罰と裁きが必要だ。
そして永すぎる生には、死を。
何時しか閉じていた瞳を開け、クラトスは木々の合間から星を仰ぎ見た。
やがて夜が明ける。
如何なる結末を運ぶとしても、明日は──来る。
それは狂おしい程に待ち遠しく、そして恐れていた裁きの日だった。