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あなたの傍にいつでも

 どんな時だって一緒だった。
 だから歩んでこれた。

 軽い反りのある細剣が吸い込まれるかのように神の眼に突き刺さった。
 装飾の施された柄を関節が真っ白になるほど固く握り締めていた指が、一本ずつゆっくりと外されていく。そして遂に剣を放した手を、果たして何処へ持っていけば良いのか分からないのだろう。頼りない表情で棒立つマスターの姿を己がレンズに映して、細剣に宿りし意思は嗚呼と嘆息した。溢れ出るエネルギーによって電光のような煌めきが彼方此方で引き起こされ、直ぐにその視界は不自由になったけれども。
 地上軍の局地用戦闘兵器ソーディアンの役目はここで終わる。天地戦争の遺産は千年の時を経て、ようやくその使命を果たす事が出来る。

 今、初めて僕はあなたを置いていく。

 奇跡の力を操る少女が時空転移をすると仲間達に告げて、首元のレンズに手を添えた。この場には神の眼から放出される強大なレンズエネルギーが充満している為、このまま転移する事が出来そうだった。五本揃ったソーディアンと言えども、これだけのエネルギーを押さえ付けておくのは重労働であったから、正直助かった、と息を吐く。無論そう言う機能があるわけではないが。
 五月蠅いくらいのスパークとはまた違った、清浄な白光が少女の全身から放たれた。その光は、早くこの場から脱出しようと彼女に駆け寄る仲間たちの姿と同様に、未だ立ち尽くすマスターの身体も呑み込んでいって──

 でもぼっちゃん、マスター、あなたは独りぼっちなんかじゃない。
 だから泣かないで。

 十八年前のあの旅の間、他のソーディアンマスター達とは比べ物にならないほど彼ら二人の繋がりは深いのだとマスターは、そして彼も自負していた。マスターには彼が、彼にはマスターがそれぞれ必要で、そこにいて当然の存在だった。ある意味一心同体等という言葉では表現仕切れないような、一方でその言葉が何よりも相応しい関係だった。だから、お互いにとって辛い決断にも覚悟が出来た。
 そのマスターが、辺りを埋め尽くして判別も出来なくなった白い風景の中で、彼の声にならない呼び掛けに応えて頷いたような気がした。

 使命を果たすために、剣の身体も失くなってしまうけれど。

 剣であるソーディアンの刀身を身体と呼ぶならば、その内側から激しい熱のようなものが瞬間的に沸き上がり、爪先から脳天まで身体中をエネルギーが通過していった。共鳴し合った仲間たちと神の眼の意識や記憶やエネルギーと言ったものがごちゃ混ぜになって、処理しきれない情報の洪水に溺れそうだと思う間もなく。
 一際高い音がして意思が宿ったコアクリスタルにヒビが入り、次の瞬間には足下から粉々に吹き飛ばされていく感覚が彼を襲った。
 最後に思い描けたのは、マスターの。

 それでも僕はあなたの傍にいつでもいるから。