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可哀想なお母様

 神を抱いて墜ちゆく星中から、彼女は慈悲深くも見える表情で地上を見下ろした。
 千年前この惑星に衝突したのと同様、あるいはそれ以上の規模の質量が今一度天から降る。その時この下らない世界は終焉を迎え、今度こそ真の幸福に満ちた世界が誕生することだろう。
 やっと己の使命は果たされるのだと思うと、彼女は安堵を覚えた。
 星は次第に地表に近付き、今では一つ一つの町の位置まで分かる高度だった。やがてはこの町々も、そこに住むすべての人々も消え去る。
 新しい歴史の幕開けだ。

 彼女には今この瞬間にも聞こえる声がある。
 それは人々の救いを求める声だ。
 その願いを他ならぬ自分が叶えてやれるのだと、彼女はうっとりと夢見心地で微笑んだ。

 ふいに、地上から大きな鳥が飛んでくるのが見えた。──否、それは鳥に似た形態の飛行機械だった。ぐんぐんと高度をあげ間近に迫る機械を凝視して、彼女は吐息を漏らした。
 彼女と同じ使命を負った聖女があの機械に乗っている。その聖女が選んだ英雄が傍らに付いている。
 彼女と星を止めようとやって来る。
 神を殺そうとやって来る。
 彼女が立つ位置よりも大分上の方にアンカーが撃ち込まれ、星はかすかな振動音をその内部に響かせた。人々の願いが込められたレンズの塊がその瞬間光を輝かせる。
 彼女は身を翻して神の核であるそのレンズに寄り添った。

 可哀想に。可哀想に、フォルトゥナ。
 救いを求める人の声に応えんとする貴方とその御遣いである自分を他ならぬ人が否定するとは、なんという皮肉。
 切実なる願いの声が聞こえない愚かな人々と、それ以上に愚かしい存在に成り下がったもう一人の聖女を思って彼女は嘆いた。
 彼女には判らない。
 なにゆえ姉妹が母たるフォルトゥナを裏切るような決断に至ったのか、理解したくもない。
 それとも、ただ歴史を繰り返すばかりの人間に未来を委ねようと本気で思っているのかと、彼女は笑ってもみた。

 だから、決して判りはしないのだけれど。
 何故だろう。同じように幸せを模索していたはずの二人が道を別れたのは、どんな差があったと言うのだろう。
「誰か──」
 答えられるものならば、誰か、答えて欲しいと。答えを求めた声は空しく響き、応じる者はどこにもなく。

 独りぼっちなのは今や自分の方だと、彼女はふいに気が付いた。