「なにやってんだ、カロル」
頭上から聞こえた青年の声に応え、カロルは机に広げた様々な図案を指差した。
「ギルドのマークを考えてたんだ」
自分たちのギルドを作るとなると、考えないといけないことが沢山ある。
掟、名前、それから格好良いマークを!
「やっぱり星の形が良いと思うんだけど、なんかこう、ビシッと決まんないんだよね」
戴いた名を示す絶好の図案であるが、既存のギルドでも星をモチーフにしたマークは多い。
「ユーリはどう思う?」
期待を込めて見上げた青年は、しかし軽く肩を竦めると背を向けてしまった。
「俺はそういうのよく分かんねぇしな。ボスに任せるよ」
得意分野だろ、と言われて頷きはしたものの、カロルは密かに落胆した。ギルドのボスが自分ならば、No.2はユーリだ、と彼は思っている。であるならば、ギルドの象徴を二人で協力して作り上げたかったと思うのは強欲だろうか。
だが、一任は自分への信頼の証でもあるはずだ。
そう言って自身を奮い立たせ、机に向かい直る。その時、青年の傍らに控えていた獣が身を乗り出し、広げられた図案を一瞥した。
「なに、ラピード。興味あるの?」
半ば冗談のつもりで問うたはずが、肯定の音を帯びた鳴き声が応え、カロルは目を見張った。
試みに図案を指し、コンセプトや問題点など思うところを語ってみれば、銜えたパイプを揺らしながらじっと話を聞いている。理解しているのか否か、カロルには判断つかぬ事だったが、時折頷いているようにすら見えた。
次第に楽しくなったカロルは、幾つもの図案をラピードの鼻先に広げて見せた。尻尾を揺らめかせたり、顔を背けたりと反応するのに対し、図案にイメージを足し引きしていく。
その時、一人と一匹の様子を眺めていたユーリがふと呟いた。
「そうか、運営の決め事でボスの相談に乗るのも、大事なNo.2の仕事だよな」
「勿論そうよ。ね、カロル」
いつの間にか、寄り添うようにして机を覗き込んでいたジュディスがそれに頷く。
「う、うん」
期待を込めて、カロルは二人を見上げた。
同じ掟に誓いを立てた仲間たちは、それに応えて微笑んだ。
「さすがだな、ラピード」
「頼もしいNo.2で良かったわね」
──ラピードってギルド員だったの?
ボスだけが知らぬ事実に、カロルは図案を掲げたまま固まった。