騎士の鋭い目は、油断なく眼前の生き物を捕らえていた。
一瞬たりとも気は抜けない。
何しろ未だ善悪も危険さえも判断がつかない幼な子は行動パターンが予測不可能だ。
紅葉のようなと称したくなるぷくりとした小さな手は、機能性は低いものの、好奇心をあらわに何でも掴みたがる。
最近では、不釣合いに大きな頭をぐらぐら揺らしながら、小さな足で歩く喜びを覚えてしまったものだから始末に終えない。うっかり目を離してこのか弱い息子が自分の目の届かないところに行ってしまったら…。想像するだに恐ろしい。
こんなにも華奢なのだ、転んだ拍子に壊れてしまうかもしれない。子供らしい好奇心で危険なものを口に入れてしまうかもしれない。椅子でも倒して頭髪は生え揃ったがいまだ頭蓋骨も柔らかいであろう頭を打ったら…。
平和なはずの我が家が危険地帯に見える。
床に座ったまま――長身の自分が立ってしまっては息子から遠くなるので――低い視点であたりを見回した。
いっそ紐でも付けておけば安全かもしれないが、犬猫にするような無様な仕打ちが、どうしてこの柔らかく暖かい利発そうな目をした子供にできようか。
――嗚呼、この愛らしさは、最大の武器だ。
脆い子供を扱うには武骨に過ぎる己が手を呪う。愛する者達を守る力が、我が子を抱くには繊細さを欠くというパラドックス。
葛藤する父の心を知ってか知らずか、胡座をかいたその膝によじ登ろうと必死な幼児を見つめて願うことは唯一つ。
早く帰ってきてくれ、アンナ…。
TOS未プレイの右己さんに「クラトスのこっこ倶楽部」等と言う無理難題押し付けた挙げ句、掲載許可をもぎ取った作品です。
妻に実家に帰られてしまった駄目亭主のようなクラトスに笑ってしまいます。そして素敵な具合に息子馬鹿で、一層笑わせて下さいます。
有難うございました!