▼全国鈍器物語［大黒柱］

　日の本の国でヨアヒムが手に入れた新しい武器は、これまでの成り行きからすれば意外な事に、所有者のみならず仲間の関心も買う事に成功した。
　朱塗りの柱を眺め、最初に声を発したのはウルであった。古い住処を懐かしんだのか、強い意志を宿す目元が、幾らか和らぐ。
「こういうのって、何か良いよな」
　同意を求められた狼の相棒は、確かにウルと共にこの柱を覗き込んでいたのだが、用を足す場として彼の美意識を満足させられるかどうか吟味していただけであったので、応えることはなかった。
「あー！」
　その時、ウルは突然声を上げ、仲間たちの視線を集めた。
　大黒柱の丁度中心辺りを指差し、ほら、と続ける。そこには幾筋かの傷跡が刻まれていた。
「俺もやったやった。柱に傷つけて身長計るやつ」
　二十を過ぎた男が、まるで幼児帰りしているかのようなはしゃぎようを見せることに、仲間たちは思わず苦笑する。けれど窘めようとしたカレンの声は、続いた言葉に奪われた。
「なんかこう、色々その人んちの歴史が刻まれてる？ って感じだろ」
　そう言われてみれば、他愛ない品も思い出籠もる宝物に見えてくるのが人情と言うものだ。仲間たちは何とはなしに大黒柱を囲むと、口々に自分の経験を踏まえ話し始めた。
　柱の根本は塗りが剥がれ、白い面を見せている。
「猫がやりおるんじゃよな。わしの可愛いコーネリアにも大敵じゃ」
　アナスタシアの頭より一つ下の辺りに、何か重い球体がぶつかり窪んだ跡がある。
「これ、頭ぶつけたのよ！ 絶対この子はバカになったわね」
　色が微かに濃く出た面があり、ルチアが鼻を寄せれば、果実の匂いが微かに鼻腔を擽った。
「果物剥くの、下手だったのかしらねぇ」
「バウゥッ」
　最後に、香料師より鼻の利くブランカは、彼より前に目的を達した不届き者がいた事を嗅ぎ取り尻を向けた。

▼鈍器データ

▽アイテム解説（ゲーム内より引用）

先日取り壊された日本家屋の柱。長い間風雪に耐えながら、そこに住まう家族を守り続けてきた。朱塗りの表面に残る傷の一つ一つが忘れることの出来ない大切な思い出である。

▽入手方法

横浜レンガ倉庫第二倉庫で拾得

2005年1月21日初出