TOD&D2小説倉庫

駆け引き

 その瞳は自分や兄の物とは少し色味が違って濃い紫色をしている。
 他愛もない発見に頬が緩むのは、自分にしては随分と慎重に接している賜物だからだろう。
 なんせその人はとんでも無い恥ずかしがりで尚かつ意地っ張りだから、余り真っ正面から観察していると直ぐに顔を背けてしまう。
 それだからいつもは横から斜めから見つめて、ふとした折りに彼の視線がこちらに向かった時は見計らって素早く視線を動かす。

 一瞬だけ、交わる視線。
 一瞬だけ、お互いの姿を瞳に映しているのが見える。
 一瞬だけ、見つめ合えた気分。
 うふ、と漏れた笑みに彼が怪訝な顔をして、思った通りの反応に彼女が更に相好を崩す。

 夕陽に照らされた海のようだと思う。
 あの冬の時代にそんな光景は見ることが出来なくて、何時か太陽に照らされ表情を変える世界を見てみたいと願っていた。今こうして千年後の世界で沢山の自然の色を見ることが出来るけれど、その色の中でも。
 深い紫色をした、この色が好きだ。
 それから、この色を宿した人が。
 すべてが終わって、何時かあの凍てついた大地にも太陽の恵みが与えられるようになったら、この色を見て、ほんの少しだけ愛しい想いをしよう。
 きっとそうしよう。