その男はある日ふらりと現れ、気付けばダングレストの街で知らぬ者はないギルドユニオンの幹部になっていた。共に歩けば、擦れ違う何人もが彼に親しい声を掛け誘う。
但し当人は無精髭の生えた顎をさすり、目を細めて嘯くばかりである。
「こんな素性の知れないおっさん、信用しちゃ駄目よ」
「なに言ってやがる」
ハリーは口を尖らせた。皆に愛され、慕われ、祖父の信頼まで勝ち得た身で、一体なにが足りないと言うのか。
第一、男の素性などはっきりしてる。
請け負えば、怪訝な表情で見返してくる。それがまた腹立たしく、ハリーは声を荒げた。
「天を射る矢のレイヴンだろ!」
この街にそれ以上の保証はない。
だと言うのに、男は阿呆のように口を開けたのみであった。