She is a Lady Witch 2

 どのくらい同じ質問を投げ掛けられたのだろう、と思いながらそれでも彼女は微笑みを浮かべ、その言葉を口にした。
「双子なんですって?」
 疑問系でありながら肯定される事を前提とし過ぎている。
 それは何故かと言うと、ある程度の社会構造を推測する知恵がある、或いは目の見える者ならば、その青年たちの姓であるとか似通った容姿から血縁関係を想像するのは容易い事だからだった。
 声を掛けられた青年は、彼が宿す明るい色に似合いの笑みで振り返ったが、幾度となく繰り返したやり取りに心中うんざりしているのは間違いない。
「そう。よく似てるでしょ」
 瞳の奥に見え隠れする凶暴な色。
「そうかしらね」
 こちらは瞳まで完璧に微笑ませて彼女は彼を見返した。
 予期せぬ応えに一瞬彼は鮮やかな眼を見開き、けれど口元は溜息を漏らしたげに不安定な形で歪めた。その様に、彼女は嗚呼と得心した。
 確かに彼と弟は姿形が似ているものの、身にまとう雰囲気とそれに由来する自我──否、逆だ──が余りに違っていた。いわゆる想像上の産物としての双子を期待していた者にはそれが奇怪に映るらしい。彼女自身も向けられた覚えがある、先走ったイメージだった。
 兄と自分に、果たしてどれほど同じ箇所があっただろうか。
 同じ遺伝子を共有する彼ら二人のようにせめて容姿だけでも等しければ……それでも同じ運命を共有出来ないと言うのに。
「弟くんは、そんな激しい目をしてないわ」
 今度こそはっきりと困惑の色が浮かんだ。そうしていれば少しは年相応に見える彼だったけれど、双眸に宿るのは幾らか強過ぎる苛烈な意志の光なのだ。
 若過ぎるのか、或いは長く執念を燃やし過ぎたのか。
 とは言え、生憎男の危険な香りに惹き付けられるうぶな時期は過ぎ去ってしまった彼女にとって、それは年下の少年をからかう材料くらいにしか見えなかった。
「もっとポーカーフェイスが身に付くと良いわね」
 それこそ何を考えているのか読めない艶やかな笑み。
 彼が言葉を紡ぎ出すより早く、彼女は自分を呼ぶ第三者の声に気付いてゆっくりと彼に背を向けた。大きく弧を描くように髪が宙を流れていく。欠けた月を形取った装飾具が闇色を背景に揺れた。
 けれどその所作は両肩から回された外部の力によって差し止められる。
「お姉さんは教えてくれないの?」
 男物にしては綺麗な長い指先が、自分の胸の前で組まれているのを見下ろして、彼女は溜息を吐いた。
 彼の周辺から聞こえる華々しいと言うより騒々しい戦歴はよく知っていた。別にそれは良い。しかし院は狭い空間だった。さして変わらない面々と顔をつき合わせて生きていく為にはある程度のやり方と言うものがある。
「野花を摘む趣味を控えるなら、その内にね」
 紅色に輝く指先で不埒な手を弾いてやって、彼女は彼を省みずに立ち去った。