She is a Lady Witch 3

「噂になってるわよ」
 親しい同性の友人が発した台詞は、果たして親切なのかお節介なのか見極めに労するものだったので、数瞬の沈黙の後、彼女はもっとも無難な応えを選んでみせた。
「そう」
 あまりに素っ気ない彼女を、友人は机の上に顎を乗せた格好のまま上目遣いで見上げる。相手の不可解そうな感情は、彼女にとって理解し易い事だった。
 彼女が噂にあげられるのは珍しい。実際、今回の件は何をするにも派手好きな相手の責任だった。とは言え、どちらかと言えば噂を手玉に取っているような彼女の事だから、放置していると言う事は大した事でない証拠なのだけれど。
「年下なんでしょ?」
 続く言葉の語尾が軽やかに持ち上げられる。
 彼女は色付いた唇で緩い弧を描くと、真白い花々が植わった鉢植えに水を差し入れた。色を濃くする土の上にすっと立つ茎、そして白い花弁が縁取る可憐な花。自分には似合わない花である為、彼女はそれを後で談話室にでも飾ろうと決めた。
 それから漸く好奇心旺盛な友人の方に視線を転じて、花より華やかに微笑んでみせる。
「年上しか相手にしていなかったら、それこそ異常じゃないかしら」
 それは明らかに混ぜ返しただけの台詞で、友人は真っ直ぐ前へと投げ出したままの腕を、軽く振り上げてみせた。
「そう言う意味じゃないわよ」
 分かってるくせに、と膨れてみせる。友人は黙っていればそれはそれで綺麗な顔をしていたが、こうした子供染みた仕草をしている時の方がより愛らしい、と彼女は確信していた。
 それきり黙り込んだ友人が掌の中で転がしていたマグカップを置くと、重みのある音が部屋の中に響いた。覗き込まなくとも、中身はまったく減っていないと知れた。友人の好みは甘味に偏っていたから、簡単に想像出来る結果だったけれど。それより、それを持ったまま不自由な体勢でいた事の方に感心してしまう。
 女子寮の共用調理室は充分に過ぎる広さがあって、この時のように眠気覚ましの一杯──正確には二杯を淹れる為だけに使われるのは勿体ないような気もする。
「マリーがね、エファは野良猫の世話してるんだって言ってたけど?」
 暫く経ってから、不意にそんな言葉が発せられた。この愛しい友人はそれの正確な意味を分かっていないのだろうに、と彼女は事の可笑しさに笑みを浮かべ、黒い瞳を細めた。
「……案外お喋りよね、彼」
「そうね」
 悪びれず頷く友人と、彼の、どちらに対する意趣返しなのかは彼女自身にも良く分からなかったが、意地の悪い女だと自分で苦笑して。
「リカの事、愛しちゃってるからかしら」
 美しいものを愛でるのは、人として正常な感情だと彼女は思う。
 それが決して手の届かない純粋さであれば尚更。
「やだ、気持ち悪い」
 随分とはっきり言い切った友人の表情を見返してから、彼女は思わず素直な笑い声をあげた。