傍らで眠る彼女の吐息だけが世界だった。
夜は追っ手から流亡の者たちを包み隠したようだった。ディザイアンも、二人を追うばかりが職務でない。牧場を遠く離れ、野営の火も消してしまえば彼等の所在を知るのは困難だ。
そうして得られた慎ましい安らぎの中で、彼女は眠る。ない火の代わりに今は身を寄せ合いながら。
規則正しい寝息が肩口に温度を伝えた。
彼の方はそれを感じながら、ひたすらに彼女の目覚めを待つ。
やがて月星が空を巡って陽が昇り、彼女の眼が開いたら。
同じ朝はもう何度も迎えたが、未だにその瞬間の想像は動揺を誘い、それから胸の内を不思議と温かな想いで満たす。明日をも知れぬ路だからか、長きを昼夜もない天の国で過ごしたからか――所以はどれとも判断しかねたが、そもそも問題でなかった。
大切なのは、二人で新しい日を迎え、それを祝福すること。その為の言葉は、もう用意されている。
彼は彼女の眠りを妨げぬよう息を潜めて、けれどその時を待った。