人は夢を見る。
生きながら死ぬ心の錆び付いた男も、夢を見る。
向けられた眩しい微笑み、肩に乗せられた温もり。懐かしい、愛おしいと思うには傷は未だ新しく、男は疲れ切っていた。けれど記憶の中で絡める指から伝わった震えは海馬を中心として波打ち、意識を千々に掻き乱す。
夢と言うものは覚えておく為に見るだとか、忘れる為に見るだとか、様々に聞いた。
これほど克明に覚え続けなければならないものか、と微睡む意識の中で男は嘆く。だが忘れたいとも思わない。忘れられない。
愛したことを。
殺したことを。
今宵も良い夢を。現実に絶望する為に。