「……さよなら」
再生の神子は別れを告げた。幼き恋と、人であった幼年時代に。
しかしながら少年はその意味を理解してなどいなかった。きっと総てが彼の手の届かぬ場所まで消えて初めて、少年はその真実に気付くのだろう。
自分と彼女がどうだったか、クラトスは覚えていない。
別れの言葉は疾うに交わしていたように思うし、一度もしてはいなかったようにも思う。その曖昧さは、何時か来る時を誰より理解していながら、覚悟などまるでなかった、あの日の脆さそのものだ。
今また、眠る彼女に言葉の一つも言えぬ己はあの時からなにも変わっていない。
この弱き心も、哀しみも、想いも、苦しみも、――愛も。
嗚呼、だからこそ口には出来ないのだ。