愛しい子── そう喚んでいる声が聞こえて少年は首を傾げた。 ざわざわと音を掻き鳴らし木々の間を風が走り抜ける。その風音の合間から声は聞こえるようだった。 精霊たちが囁きあっているのかも知れない。 万物に宿るマナ、そのマナをもって世界に働き掛ける精霊。形を取っていなければエルフであっても見ることは出来ないと言うその存在を、少年が感じ始めたのは何時からだったろう。 愛しい子── けれどその声は喚び声にしか聞こえず、少年はついに立ち上がると風を追って駆けだした。