天の響

ユアン好きに10のお題

こんな筈では!

 こんな筈ではなかった。望んでいたのはこんな結末でなかった。
 ただそんな事だけを思いながら、ユアンは膝を着いた。
 彼女は悲鳴を上げなかった。上げていれば誰かが必ず気が付いてやれた──それが分かっていたから、彼女は黙って耐えたのだ。
 ユアンは呼吸を殺し緩慢な動きで片手を伸ばした。だが。
「触るな!」
 鋭い声がして、その一切の感情が刮げ落ちた声音の方に戦慄した。
「触るな……触らせやしない……」
 ユアンは手を引き戻し息を吐いた。だがその動作も見えていないのか、少年はただ彼女を抱き締めて呪詛のように同じ事だけを呻いている。
 嗚呼、とようやく空虚に響いていた胸の痛みが知覚できて、せめてそれだけを感じ取ろうとユアンは瞳を閉じた。
 こんな筈では、決して。

2004/02/13 初出