天の響

日誌再録小話群

地上との通信(ドラマCD3巻準拠)

 事務型天使DY057は、廊下で見付けたそれにほんの少しだけ首を傾げ、暫しの状況判断の後、得心してその列に加わった。
 翼持つ者達が粛々と列を成す先は、デリス・カーラーン内にただ一つ備え付けられた通信室。そこでは、遠く離れ、最早天使の眼をもってしてもただ青い光にしか見えなくなった大地と交信を行う事が出来る。
 もっとも、天使達にその部屋を利用するつもりはない。大地に在る者と、如何なる繋がりを持つ必要があろう。彼等の用があるのは、その部屋を使っている者だ。
 微かな羽ばたきの音だけが、細波のように静寂を揺らしている。
 カーラーンの新しい指導者には一つだけ困った癖があった。地上に残った盟友との交信を始めたが最後、気が済むまで出てこない。どうやら、独り言を言うのに飽くと籠もっているようだ。一度通信先に「今、何時だと思っている!」と怒られてから頻度は減ったようだが、回線を開けば地上時間で数日は話し続けたままの事もあるのだから、余程積もる話があるのだろう。
 だがそれにしても。
 時の観念が不明瞭な天使達ですらやきもきする気持ちを覚えそうになったその時、ようやく天の磐戸が引き開けられた。
「……待たせたようだな」
 蒼羽の指導者は眼下の天使達を一望し、肩を竦めたようだった。
 そう、大地との絆にばかり浸っていさせる訳にいかぬのだ。天使の多くは、自分たちで考え、行動する力が未だない。彼の決裁を仰ぐ案件は、列に並んだ天使の数だけあるのだから。

2004/9/26 初出