ロイド・アーヴィングには学がない。
学はないが、彼には誰にも負けない野生の勘がある。嗅覚と言っても良い。度々彼を窮地から救ったその感覚が、今激しい違和感を訴えている。ロイドはその内なる声に突き動かされるまま、目の前の揺るがぬ背中を睨み付けた。
金で働く傭兵だと聞いた。確かに剣の腕は立つ。エルフ族ではないらしいが魔術まで操り、攻撃と癒しの手を使い分けて自分たちを助けることしばしば。その上何時でも冷静で、指摘は常に正しい。
けれど──
「なぁ」
道はないのだろうか。
「本当にないのか」
二つの世界を共に救い、コレットを犠牲にせずに済む方法は。
傭兵は一度立ち止まり、振り返らないまま問い返した。
「なぜ、私に問うのだ」