虹色に燦然と輝くマナの申し子は、契約を前に問うた。
「君たち、名前は?」
風に名前などない。古よりシルフと呼ばれる精霊である彼女たちは、すべてが名も無き風であり、シルフであった。もとより、常に同じ姿をしている訳でもない。契約者こそが彼等を形作るのだ。
この時の契約者は、一筋の薫風、旋風、凪を見て、各々に形を与えた。そして名を問う。
――シルフは困惑した。
「我等に名などありません。智恵あるものは我等をシルフと呼びます」
決して愚鈍でない契約者は、けれど首を傾げた。
「でも君たちは三人別々でしょう?」
その言葉はシルフである彼女たちの心を大きく揺るがした。一方は風が真直ぐに吹いていったと思い、一方は渦を巻いたと思い、一方はじっと風が柔らかに世界へ溶けていったと思った。
契約者の言う通り、最早、彼女たちは全くひとつでなかった。
「名前は大事だよ。呼んで貰えるもの」
そして居場所を与える。だからこそ名を必要とするのだと言う、契約者の澄み切った瞳が微笑んだ。
こうしてシルフに三つの自我と、居場所が与えられた。失うまでの喜びと共に。