天の響

ミトス・ユグドラシル14のお題

タバサ

 名を呼ばれ、酷く晴れやかな気持ちでミトスは目を開けた。
 視界一杯に広がった翠色の髪と白い顔に、途切れた記憶が回帰する。
「よかった……!」
 頭上で安堵の溜息が漏らされる。同じ言葉をミトスも反芻した。
 あの日守れなかった姉を、漸くこの手で救う事が出来た。輝石もなく打ち据えられた身体は傷を残し、息をする度に胸が軋んだが、その痛みすら今は心地よい。
 見上げた彼女が慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。その顔が滲んで見えるのは、息苦しさの為だけでない。
 ミトスは取り繕う事なく、両手を持ち上げ姉に縋ろうとして。
「痛いところはありまセんか、ミトスサん?」
 ――嗚呼、痛くないところなんて、ない。

2004/05/20 初出