「エクスフィアは無機物だから、命だとか感情なんてないってユアンは言うんだ」
その手合いに関しては一行の中で最も造詣が深いだろう彼の名を挙げ、少年は地表から拳一つ分浮いた足を揺らした。そうする姿は年相応である。
でも、と小さな手が師の手を取り、その甲に収まった深い色の鉱石を指先が撫でた。
拍子に揺れる爪先が微かに触れ、擽ったいような奇妙な感覚をクラトスに与える。
「こうして触れると温かい気がする。僕らに、何かを語りかけているみたいに感じるんだ」
盟主たる少年の言うことは、時折余りに抽象的で、また夢のようで、クラトスには理解出来なかった。それは歳のせいでなく、マナを視る種族とそれ以外の種族の差なのかも知れない。
「この温度、生きてるって事だと思うんだ」
無機物を敢えて身の内に飼うエクスフィアの技術は、一行にとって賭だった。或いは己が保てなくなる危険も考えられた。
それなのに少年は石もまた生きていると感じるのか。
「ならば、それを忘れない事だ」
石に添えられた手を包み込めば、確かな温もりがそこに在る。
「その温かさを忘れない内は、お前も生きている」
支配するのでなく、支配されるのでもなく、共生する有機と無機のどちらでもあること。それが新しい自分たちの生き方なのだろう。