何者も差別されない平和な世界。 そんなものは幻想だ。仮にこの戦争が自分たちの生の内に終わったとしても、地上に種の違う知的生命体が複数体いる以上、望める筈もない未来。 ヘイムダール出身の混血児はこれだから嫌なのだ、とユアンは密かに舌打ちした。 姉弟が語るそれは、ただの夢物語だ。 理想は腹を満たさない。益するのは現実に生き、食う為の方策だ。 けれど――けれど、物語の結末に似たその穏やかな世界で、傍らにそれを望んだ彼女の微笑みが在るとすれば。 その想像はユアンの胸を満たした。