手が躊躇っている内に、彼女は弟の腕に掴まり川を渡り切っていた。宙を虚しく掻いた指先は何の役も成さず袖の中に隠される。
こう言う事は苦手だった。
三者の間に存在している均衡が崩れるだろう、その一歩が恐ろしい。
「ユアン、葉屑が付いているわ」
だと言うのに、彼女はその手を易々と伸ばしてくるのだ。
彼が超えられない見えない壁を遙かに超えて。
咄嗟に振り上げた手は、白い手を拒絶し弾いていた。彼女を手助けしようとした時には儘ならぬのに、何故こんな役にだけ立つのだろう。
眼を丸くした少年と、悲しげに睫毛を震わせた彼女の、その表情が彼を足下から揺さ振り、罪ない視線にこの身を投げ出したくなる。
「すまない」
胸に堆積した想いは撓むほどに重く、ユアンの視線を土精霊の引力に従わせた。
君のことは愛しいと思うのに、優しく出来ないんだ。