天の響

ユアマー15のお題

指輪

「見て、ユアン。白詰草の四つ葉よ」
 草原に小さな白蝶が留まっているように見えたのは、野の花だった。
 膝を曲げたマーテルが少し躊躇った後にそのひとつを手折った。白花ではなく、その葉を。細筆の先で白く履いたような独特の印の上に軽い口付けを落とす。
 彼女が手にすれば、ただの草も大輪の花に等しい。
 そうして祝福した白詰草を、マーテルは彼に差し出した。問う視線を返せば、彼女はユアンの瞳を見つめ微笑む。
「幸せを、貴方に」
 白詰草の四枚目の葉は、幸運を喚ぶ。エルフ族が聞けば一笑に付すだろう人の伝承だ。けれど古里で育った筈の彼女は、そんな儚い伽をこそ好んだ。
 渡された白詰草にユアンは彼女を真似て唇を寄せ、それから彼女の手を取って四つ葉を乗せた。
 幸は、もとより此処にあるのだ。
「では改めて私から君に」
 互い願い贈り合った幸を手に、マーテルは微笑んだ。
「ありがとう」
 葉がその身に受けただろう陽よりも明るく温かな笑み。
「なくさないように、大切にするわ」
 その言葉にユアンは思い付くことがあり、一度は渡した白詰草を指先で持ち上げた。
 茎で円を描き、端を柄に結ぶ。
「こうしておけば良い」
 茎は格別長くもなく、形は些か歪だったが、彼女の細い指にはぴたりと合った。

2004/12/04 初出