天の響

ユアマー15のお題

カーラーン大戦

 大戦が終わった時の事と言うのは、想像の外にあった。
 千年、人は争い続けた。それより前の時代を知るものなど、古里のエルフにもない。大戦がなければと夢想したことはあったが、それに何の意味があろう。悲哀と荒廃の時代は既に、諦念を結合剤に自身の一部となっていたのだ。
 ゆえに、大戦が終結し、やがて初めにあった昂揚感が消え去ると、ユアンは落ち着かない気持ちだけが手元に残された事に気付いた。
 初めて知った平和とは静穏で、存外退屈なものであった。得難く貴重なものであるがゆえの二律背反であるかも知れなかったが。
 最早苦しい旅路を往く必要はない。人の思惑はどうであれ、勇者の一行として遇されもしている。無論望みのすべてが果たせたわけでない。マナは遂に枯渇し、実を芽吹かせるには足りぬ。世界の形は不自然に引き裂かれた。だがそれも母なる星の出現を待てば解決されるのだ。
 これより続く長閑を如何に過ごせば良いのか等と、まったくもって正しい理想の徒である姉弟には到底言えぬ。故にこの愚痴が遂に零れたのは、唯一人間である同志との酒席だった。
 そして愛想のない友は、端的で容赦ない回答だけを彼に与えた。
「閑を持て余しているなら、マーテルとの事をどうにかするが良かろう」
 それは、大戦のいかなる局面よりも厳しい戦いをユアンに予感させた。

2004/12/10 初出