天の響

クルシス20題

料理

 その王との会談は夕餉を共にする形でとられた。
 今回の和平に関して最大の権限を持つ勇者に対する諂いと、異種族への侮蔑が混じった王の視線だけでも不快だったミトスは、運ばれてきた料理を見るなり更に気分が悪くなった。
 権威を見せ付けたいのか、大量の食材を費やした、とても食べ切れそうにない量。それが指紋一つなく磨き上げられた銀の食器に仰々しく盛り付けられている。
 驚いたのは、直接運ばれてくるかと思ったその皿が、まずは部屋の隅に控えた3人の男たちに順に回された事だった。毒味役だ、と傍らの騎士が疑問に答える。その存在にも胸の辺りが拒絶反応を返した。
 ようやくミトスの前に運ばれてきた料理は、一目では素材が何であるかも分からないほど技巧が凝らされている。果たしてこの一皿で幾人の飢える人を救えるのだろう。
 沈痛な気持ちで口に運んだ料理は、客人の前に辿り着くまでの道のりで熱の殆どを奪われ、温い奇妙な感じを舌に残した。

2003/12/09 初出・2004/05/22 一部改稿