「ない……!」
はっきりと分かるほど青醒めたユアンの表情を数秒観察し、そうか、とクラトスは相槌を打ってやった。途端、今度は赤味が差したユアンに、忙しない奴だと嘆息する。
「貴様、のんびり見てないで手伝え!」
何故自分がその注文に応えねばならないのだろう。例えば他の同志──マーテルは快く受け入れるだろうが、内心では悲しむだろう。それをミトスが知れば人死にが出かねない。そこまで思案して、クラトスは渋々頷き手を差し出した。
「……仕方あるまい」
「なんだ?」
何を盗るつもりか、と妙な警戒をした様子のユアンに応える。
「マーテルから指輪を借りてこい。ノイシュに嗅がせる」
失せ物探しと言えば当然このやり方だろう、と大真面目に言い切ったクラトスの頭が瞬時に叩かれた。