天の響

クルシス20題

 ミトスは瞳を大きく開いた。身体が震える。生命を奪った感触が、手のひらにこびり付いて消えない。
 それだと言うのに、同胞たちはこの隠れ里が守られた事を喜び、ほんの少し──少しだけ森の中に踏み込んできてしまった哀れな旅人は、顧みられる事もない。
 これでは、人間と変わらない。
 そんな思いが漠然と胸の中につまり、吐き気がする。けれどミトスは同胞たちの前で失態を見せる事を自身に許せず、その嫌悪感を飲み込んだ。
 生理的な涙が睫毛に溜まった。

2003/12/15 初出