天の響

クルシス20題

師弟

 結局、魔術を教える事になったのはユアンだった。
 クラトス本人にしてみれば正直誰でも構わなかったのだが、剣の弟子であるミトスが相手ではお互いにやりにくいだろうと遠慮は働いた。そこでマーテルに話を振ったところ、横槍が入ったと言うわけだ。
 しかし。
「だから、そこはこの辺のマナをいい案配に手繰り寄せてだな──」
 愚鈍なわけでは決してない生徒を前に、ユアンは困惑の表情を浮かべた。
 彼らは魔術を頭で理解して使っている訳でない。エルフの血が、マナを操る力を自然と備えさせているのだ。
 必然的に、ユアンの教えはかなり大味となる。
「つまり──こう、周辺のマナに自分のマナを広げ、干渉することで影響範囲を決めると言う事か?」
 対するクラトスは、時折実演を交えながら自分なりに考えた理論を披露し、ユアンが頷いたり否定したりするのを聞いている。
 その様子を眺めながら、やはり自分が教えようか、剣と魔術の交換と言う形にすればお互い納得もいく事だし、とつらつらミトスの思いが巡る。
 しかしその場は取り敢えず傍観の立場を崩さないまま、傍らの姉を見上げ首を傾げるのだった。
「どっちが教えてるんだと思う? 姉さま」

2003/12/22 初出